特殊詐欺(現金等送付型)における受け子の罪②

特殊詐欺(現金等送付型)における受け子の罪②

福岡県朝倉市の大学に通うA君(21歳)は、あるバンドグループに所属していました。
バンドグループにはAさんの他に、大学のOBであるB(30歳)、同じくOBのC(25歳)と同級生のD、Eが所属していました。
A君は学業やアルバイト、就職活動などでしばらくバンド活動に参加していませんでしたが、アルバイトの休みが取れたので久しぶりにバンド活動を再開することにしました。
すると、Aさんは年長のBさんから「久しぶり!元気だったかい?」「実は、A君がいない間、俺たち4人で新しい活動を始めることにしてさ。」「活動で得た金はバンド活動の費用に充てようと思っているんだけど参加してみない?」などと言われました。
A君は、バンド活動のためならと思いこれを承諾したところ、Bさんから「では、福岡県朝倉市の部屋に荷物が送られてくるので受け取ってくれ。」と言われ、部屋の鍵を渡されました。
A君は、鍵を開け荷物が届くのを待っていると部屋のベルが鳴りました。
A君は玄関ドアを開けるやいなや、対面した男性から「福岡県朝倉警察署だ。詐欺未遂罪で逮捕する。手を前に出して。」などと言われました。
そしてA君は何が何だか分からないまま福岡県朝倉警察署に連行されてしまいました(この後、バンドグループはある詐欺組織から委託を受けて詐欺活動(Bさん、Cさんはかけ子、Dさん、Eさんは受け子)をしていたことが判明し、全員が逮捕されました。)。
(フィクションです。)

~特殊詐欺と承継的共同正犯~

前回の「特殊詐欺(現金等送付型)における受け子①」では、特殊詐欺の「現金等送付型」において、「受け子」が詐欺罪の一部しか加担していない(つまり、現金等の受領行為しか担当していない)のに、なぜ、(かけ子らと同様に)詐欺未遂罪に問われるのか?という問題提起に対し、「承継的共同正犯」という理論を用いて解説しました。
今回は、この点に関する参考となる最高裁判所の決定(平成29年12月11日)がありますから以下でご紹介します。

事例の概要は以下のとおりです。

平成27年2月下旬頃、特殊詐欺グループのBが会社員のふりをして被害者Vに電話をかけ、必ず当たるロト6に当選したこと、特別抽選にはX銀行の審査が必要であることを告げました。
また、同じグループのCがX銀行の審査員のふりをしてVに電話をかけ、住宅ローンや定期預金の有無を尋ねた上、後日、審査に通った旨をVに告げました。
その上で、3月下旬頃、Vから電話を受けたBは、Vに特別抽選に参加するにはX銀行にお金を払わなければならない旨を言い、Vに指定した先に現金合計150万円を送付させました。

そして、Bは、3月16日、再びVに電話し、150万円のうち100万円は銀行への振り込みが間に合わなかったこと、その100万円はBが立て替えたこと、今回は特別抽選には参加できず、今度の特別抽選に参加するためひとまず150万円が必要なこと、を言いました(本件欺罔行為)。
これを聞いたVは息子に相談したところ、「詐欺の被害に遭っている。」と言われ警察にも相談したところ、3月23日、Bらの話が嘘だったことが判
明しだまされたことに気づきました。Vは、警察から「だまされたふり作戦」に協力してほしいなどと言われました。

3月24日午前10時3分頃、BはVに電話しました。その際、VはだまされたふりをしてBに現金を準備した旨を言いました。
同日午前10時35分頃、BはVに電話で現金の送付先や宛名を伝え、現金を入れた荷物を配達時間を指定して宅配便で送るよう指示しました。
これを受けてVは、同日午後0時40分頃、コンビニから不要な本を詰めた荷物を指定された場所宛に送りました。

その一方で、A(本件被告人)は、3月24日、知人からの紹介で本件荷物の受け取り依頼があったのでこれを承諾し引き受けました。
実は、Aは、これまでにも氏名不詳者から指示のあった場所・時間に他人の名前を使って荷物を受け取り、受け取った荷物を知人に渡すことで1回、5000円から1万円の報酬を受け取る仕事を数回引き受けていました。
Aは、3月25日、指定された場所で待機し、他人の名前を使って荷物を受け取ると、配達員を装った警察官に詐欺未遂罪の現行犯で逮捕されました。

~最高裁は「承継的共同正犯」を採用したか?~

最高裁は職権で次のように判示しています。

A本件詐欺につき、共犯者による本件詐欺行為がされた後、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、共犯者らと共謀の上、本件詐欺を完遂する上で本件詐欺行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。
そうすると、だまされたふり作戦の開始いかんにかからわず、Aは、その加行前の本件詐欺行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。

したがって、「本件につき、Aが共犯者らと共謀の上被害者から現金をだまし取ろうとしたとして、共犯者による欺罔行為の点も含めて詐欺未遂罪の共同正犯の成立を認めた原判決(高裁判決)は、正当」である、としました。

以上からすると、最高裁が承継的共同正犯の理論を採用したのかどうかはっきりとは分かりませんが、「本件詐欺につき、共犯者による本件詐欺行為がされた後、だまされたふり作戦が開始されたことを認識せずに、共犯者らと共謀の上、本件詐欺を完遂する上で本件詐欺行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為に関与している。そうすると、だまされたふり作戦の開始いかんにかからわず、Aは、その加行前の本件詐欺行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負う」と判示していることからすると、詐欺罪の承継的共同正犯の成立自体は認めているものと思われます。
なお、この決定の後、被告人に対する有罪判決(懲役3年、執行猶予5年)が確定しています(地裁では無罪、高裁で有罪)。

こういった法律の専門知識を基に刑事事件の見通しや手続きを考えることは、一般の方のみでは難しいことも多いです。
遠慮なく弁護士の相談を利用して、今後の活動にいかしましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,特殊詐欺事件をはじめとする刑事事件・少年事件を専門に扱う法律事務所です。
刑事事件少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。
無料法律相談、初回接見サービスのお問い合わせを24時間受け付けております。

 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

電話番号リンク 問い合わせバナー