特殊詐欺(現金等送付型)における受け子の罪①

特殊詐欺(現金等送付型)における受け子の罪①

福岡県朝倉市の大学に通うA君(21歳)は、あるバンドグループに所属していました。
バンドグループにはAさんの他に、大学のOBであるB(30歳)、同じくOBのC(25歳)と同級生のD、Eが所属していました。
A君は学業やアルバイト、就職活動などでしばらくバンド活動に参加していませんでしたが、アルバイトの休みが取れたので久しぶりにバンド活動を再開することにしました。
すると、Aさんは年長のBさんから「久しぶり!元気だったかい?」「実は、A君がいない間、俺たち4人で新しい活動を始めることにしてさ。」「活動で得た金はバンド活動の費用に充てようと思っているんだけど参加してみない?」などと言われました。
A君は、バンド活動のためならと思いこれを承諾したところ、Bさんから「では、福岡県朝倉市の部屋に荷物が送られてくるので受け取ってくれ。」と言われ、部屋の鍵を渡されました。
A君は、鍵を開け荷物が届くのを待っていると部屋のベルが鳴りました。
A君は玄関ドアを開けるやいなや、対面した男性から「福岡県朝倉警察署だ。詐欺未遂罪で逮捕する。手を前に出して。」などと言われました。
そしてA君は何が何だか分からないまま福岡県朝倉警察署に連行されてしまいました(この後、バンドグループはある詐欺組織から委託を受けて詐欺活動(Bさん、Cさんはかけ子、Dさん、Eさんは受け子)をしていたことが判明し、全員が逮捕されました。)。
(フィクションです。)

~現金等送付型の特殊詐欺と受け子~

オレオレ詐欺をはじめとする特殊詐欺では、巧妙な事件ほど主犯格のメンバーは表に出てきません。
したがって、逮捕される者の多くは、犯行の矢面に立たされた「受け子(特殊詐欺などで現金などを受け取る役割の者)」です。
しかし、その「受け子」はときに、詳細を聞かされないまま犯行に加担させられることがあります。

特殊詐欺においては、かつては現金を銀行口座に振り込ませる「振込型」が一般的でした。
しかし、最近では、金融機関による防止策が講じられたことなどもあり、

・被害者から直接現金等を受け取る「現金等手交型」
・被害者に宅配便やレターパックなどを利用して現金等を送付させる「現金等送付型」

の手口が多いと言われており、「受け子」の多くもこの手口に加担させられています。
本件のA君は、このうち「現金等送付型」に加担し逮捕されたようです。

~詐欺罪の成立要件~

ところで、特殊詐欺で適用される詐欺罪は刑法246条に規定されています。

刑法246条
1項 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人に得させた者も、同項と同様とする。

特殊詐欺で適用されるのは専ら「1項」です。

1項を分かりやすくすると、詐欺罪は、客観的には、①欺罔行為(騙す行為)→②錯誤(被害者が騙されること=被害者の認識が客観的事実と一致しない状態)→③処分行為による財物の移転(交付行為=被害者が現金等を郵送するなど)→④財産上の損害という一連の流れが認められ、主観的には、①~④までの「故意(認識)」が存在してはじめて成立する罪です。

~現金等手交型、現金等送付型の受け子と詐欺罪~

このうち、現金等手交型の受け子については被害者と直接対面していることから、比較的容易に①の欺罔行為を認定されてしまいます。
他方で、現金等送付型の場合、受け子は宅配便等の受領行為に関与しているのみで、それだけでは①の欺罔行為を認定することが困難です。

そこで、なぜ、受領行為しか行っていないAさんが詐欺(未遂罪)で逮捕されたのかという疑問が生じます(なお、受領行為を①の欺罔行為の一部、とする考え方もありますが、この考え方に基づいてもやはり同様の疑問が生じます)。

~承継的共同正犯という理論~

承継的共同正犯は「共同正犯(刑法60条)」の仲間です。
たとえば、AさんがVさんをナイフで脅し財布を奪い取った(強盗罪(刑法236条1項))とします。
そして、それを見ていたBさんがAさんから財布を受け取ったという場合、Bさんは強盗罪の「暴行」は行っていませんが、Aさんと同様、強盗罪に問われます。
このように、先行者(Aさん)が実行行為(強盗罪における「暴行」)に着手し、いまだその行為の全部が終了しない段階で、後行者(Bさん)が先行者との間で意思を通じ、それ以後は共同して犯罪を実現する場合を「承継的共同正犯」といいます。
確かに、本件のA君も、詐欺の一部にしか加担していませんが、この「承継的共同正犯」の理論によって詐欺未遂罪の被疑者として逮捕されているのです。

特殊詐欺事件では、こういった複雑な法的理論を含めて検討しなければいけない場面も登場することが考えられます。
弁護士であれば、こういった専門的な理論や知識を熟知していますから、まずは相談してみましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,特殊詐欺事件をはじめとする刑事事件少年事件を専門に扱う法律事務所です。
特殊詐欺事件などの刑事事件少年事件でお困りの方は0120-631-881までお気軽にお電話ください。
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