キセル乗車事件(東京都青梅市)
~ケース~
東京都青梅市で人気アーティストのコンサートが開かれることになった。
Aさんは,東京都青梅市在住のファン仲間のBさんに連絡をとり,駅で不正な退場を手助けしてもらうことになった。
コンサート当日,事前の打ち合わせ通りにAさんをBさんが駅から退場させようとしたところ,駅内を警備していた警視庁青梅警察署の警察官に発見され,AさんとBさんは現行犯逮捕された。
(実際にあった事例を基にしたフィクションです)
~不正乗車~
電車の不正乗車は一般に「キセル乗車」と呼ばれます。
これは煙管(キセル)の両端が金属で中央が竹で出来ていることから「両端だけ金を使っている」ということに由来します。
最低区間の切符を購入して入場し,定期券で退場する,無人駅で退場するというのがキセル乗車の典型的な手口でしょう。
昨今では,自動改札の普及により上記の典型的な手口によるキセル乗車は少なくなりましたが,小さい無人駅であったりローカル鉄道など自動改札がない場合ですと時折検挙されることがあるようです(後述するように、キセル乗車は犯罪行為ですので絶対に行わないでください)。
駅員による改札の場合,キセル乗車は駅員を騙して本来の運賃の支払いを免れていますので詐欺罪にあたります。
この場合,財物の交付は受けていませんが刑法246条2項は「前項の方法(詐欺行為)により、財産上不法の利益を得た者も、同項と同様とする」と規定しています。
その為,駅員がいる場合にはキセル乗車は詐欺罪となり10年以下の懲役となります。
自動改札の場合は,キセル乗車を刑法246条の2の電子計算機使用詐欺罪とした判例があります(東京地方裁判所平成24年6月25日判決)。
一方,欺く対象のいない,自動改札のない無人駅で降車する場合はどうなるのでしょうか。
この場合,詐欺罪における欺罔行為(騙す行為)の対象がいないので詐欺罪を成立させることはできません。
その為,鉄道営業法29条の適用が考えられます。
鉄道営業法29条
鉄道係員ノ許諾ヲ受ケスシテ左ノ所為ヲ為シタル者ハ50円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス
一 有効ナ乗車券ナクシテ乗車シタルトキ
50円以下の罰金とは制定時(明治33年)の規定で,このような古い法令は罰金等臨時措置法という法律で罰金の多額が2万円未満の場合は2万円,寡額が1万円未満の場合は1万円に引き上げられています。
余談ですが,当時の50円は現在の価値に換算すると約20万円,科料(旧刑法の5銭以上1円95銭以下)は約200円以上8000円以下となります。
~何罪となるのか~
刑法には「既遂と未遂」「正犯と従犯」という概念があります。
既遂とは犯罪行為が完全に実現されることをいい,未遂とは犯罪の実行に着手したものの既遂に至らなかったことをいいます。
キセル乗車行為の着手時期は刑法学者の間でも見解が分かれていますが,改札口において係員に乗車券を提示した時点と解する立場が有力です。
自動改札の場合は切符を自動改札に通した時点が犯罪行為の着手といえるでしょう。
そのため,改札口での切符等の提示や切符を自動改札に通し,退場した場合に詐欺罪が成立し,係員に止められた場合には詐欺罪の未遂,そもそもその前であれば何の犯罪行為もないということになるでしょう。
今回のケースではAさんがどの時点での逮捕されたのか不明確となっています。
その為,そもそも詐欺罪が成立するのか,詐欺は既遂であったかなどを具体的状況から主張していくことになります。
一方BさんはAさんの詐欺行為を手助けしようとしたにすぎません。
この場合,正犯のAさんの手助け(幇助)した従犯ということになります。
従犯の場合,刑の減刑が定められています(刑法62条1項,63条)。
しかし,Bさんは駅にAさんの幇助のために立ち入っています。
そのため,管理者の意思の反する立ち入りであるとして建造物侵入罪(刑法130条)が成立する可能性があります。
建造物侵入罪の罰則は3年以下の懲役または10万円以下の罰金となります。
1回限りのキセル乗車行為であれば正規の乗車料金(もしくは旅客営業規則に規定されている代金)を支払えば起訴される可能性は低いでしょう。
ただし,常習的な場合や,手口が悪質である場合などは起訴される可能性もあります。
また,鉄道営業法であれば罰金刑が規定されている関係で詐欺罪よりも起訴される可能性が高くなってしまいます。
しかし,こちらは親告罪ですので鉄道会社と示談を成立させ,告訴の取下げをしてもらうことによって起訴されないことも可能です。
このように,キセル乗車行為は一見単純に思えますが,かなり複雑な場合がありますので刑事事件の弁護経験の豊富な弁護士に相談いただくのをおすすめします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件専門の法律事務所です。
キセル乗車行為やその手助けで逮捕されてしまいお困りの方は0120-631-881までご相談ください。
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(警視庁青梅警察署までの初回接見費用:39,300円)