参考事件
Aさんは,子どもを出産したように装い,出生証明書や申請書等の書類を偽造したうえでこれを提出し,V市から出産育児一時金として現金約100万円を不正受給したとして,福岡県田川警察署の警察官により,詐欺罪の容疑で逮捕されました。
Aさんの家族は刑事事件に強い弁護士に初回接見を依頼することにしました。
(事例はフィクションです。)
詐欺罪(刑法第246条)
他人の財物をだまし取った場合には詐欺罪が成立します。
詐欺既遂罪が成立するには,①欺罔(=だますこと),②錯誤,③処分,④財産的損害,およびこれら一連の因果関係が存在することが必要となります。
上の事案で問題になっている出産育児一時金とは,国民健康保険などの被保険者が出産したときに,一人当たりに対して支給されるものをいいます。
この出産育児一時金を不正受給した場合に,刑法上の詐欺罪が成立するでしょうか。
まず,欺罔行為とは,相手方を財物や財産上の利益を処分させるような錯誤に陥らせる行為をいいます。
典型的な欺罔行為は,金銭などの支払義務がない相手方に対してあたかも支払義務があるかのように申し向けるような積極的な行為をいいますが,これにとどまらず,誤振込などによって偶然手に入れた金銭について,返還義務を負うにもかかわらずこれを返還・報告しないまま放置するような消極的な行為もまた,欺罔行為に含まれることになります。
上の事案でいえば,本来子どもを出産していない場合には,出産育児一時金の受給資格がありません。
それにもかかわらず,あたかも子どもを出産したかのように装って,出産育児一時金を支給する市に対してこれを請求する行為それ自体が欺罔行為に当たると考えられます。
次に,錯誤とは,本来支払義務がないのにもかかわらず,支払い義務があると誤認している心理状態をいいます。
上の事案でいえば,Aさんの欺罔行為により,これを受けたV市が出産育児一時金をAさんに対して支給しなければならないと誤認していますので,V市はAさんの欺罔行為により錯誤に陥っていると考えられます。
それから,処分とは,財物を相手方に移転させる行為をいいます。
上の事案でいえば,V市がAさんに対して出産育児一時金を支給する行為それ自体がこれに当たります。
そして,財産的損害については,V市が出産育児一時金約100万円をAさんに支給したことで,V市は約100万円の赤字となっており,これが財産的損害に当たると考えられます。
そうすると,Aさんには詐欺既遂罪が成立する可能性があります。
この場合,10年以下の懲役に処せられることがあります。
その他の犯罪
上の事案のAさんは,V市に対して出産育児一時金を支給する際に,出生証明書や申請書等の書類を偽造し,これを提出しています。
この行為について,刑法上の文書偽造罪,及び偽造文書行使等罪が成立する可能性があります。
文書偽造罪に置ける「偽造」とは,文書の作成権限を有しない者が他人の名義を冒用して文書を作成すること(有形偽造)をいいます。
本来の作成権限を有する人が公務員である場合には公文書偽造等罪(刑法第155条),公務員ではなく私人である場合には私文書偽造等罪(刑法第159条)が成立します。
上の事案でいえば,Aさんが偽造した出生証明書や申請書について,本来作成権限を有する人が誰であったかということが問題となります。
公文書偽造等罪が成立した場合には1年以上10年以下の懲役に,私文書偽造等罪が成立した場合には3月以上5年以下の懲役に処せられることがあります。
また,偽造公文書行使等罪が成立した場合には1年以上10年以下の懲役に,偽造私文書行使等罪が成立した場合には3月以上5年以下の懲役に処せられることがあります。
まずは弁護士にご相談を
不正受給をしたことについて詐欺罪で逮捕されたという場合には,文書偽造罪など複数の犯罪が成立する可能性もあります。
そのため,このような場合には早期に今後の対応について対策を立て,見通しを立てることが重要になります。
刑事事件に強い弁護士であれば,初回接見により適切な対応方法を被疑者に伝えることができ,今後の見通しを十分に立てることができます。
不正受給で逮捕されたことでお困りの方は,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までお電話下さい。