主婦の通帳詐欺
大阪府泉佐野市に住む主婦のAさんは、浪費家で、複数の闇金業者から合計数百万円の借金をしており、返済も滞りがちでした。
ある日、Aさんは、男から非通知で、「銀行通帳と口座の暗証番号を書いた紙を送ってくれないか。」「1口座につき1万円で買い取る。」との電話を受けました。
Aさんは、違法だとは分かりつつも、お金に困っていたことからこれに応じることにしました。
Aさんは、まず、V銀行へ行き、窓口で行員に対し、真実は預金通帳等を第三者に譲渡する意思であるのにこれを告げず、また、契約申し込み書の「用途欄」の「生活費のため」に丸を付けるなどしてV口座を開設し、行員から同口座に係る預金通帳とキャッシュカードの交付を受けました。
そして、その2時間後、Aさんは予め購入していたレターパックに預金通帳とキャッシュカードを入れ、それを男に指定された住所宛に送りました。
後日、Aさん名義の銀行口座に1万円が振り込まれていました。
ところが、Aさんは、大阪府泉佐野警察署から詐欺罪と犯罪収益移転防止法違反の疑いで呼び出しを受けてしまいました。
(フィクションです。)
~ 詐欺罪とは ~
詐欺罪は刑法246条に規定されています。
刑法246条
1項 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2項 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人に得させた者も、同項と同様とする。
本件のような通帳詐欺で適用されるのは専ら「1項」です。
1項を分かりやすくすると、詐欺罪は、客観的には、①欺罔行為(騙す行為)→②錯誤(被害者が騙されること=被害者の認識が客観的事実と一致しない状態)→③処分行為による財物の移転(交付行為=被害者が現金等を郵送するなど)→④財産上の損害、の一連の流れがあり、主観的には、犯人の①~④までの「故意(認識)」が必要ということになります。
~ かつては詐欺罪の成否が争われた ~
かつては、事例のAさんの行員に対する行為は詐欺罪の欺罔行為に当たらない、預金通帳に財物性が認められない、などと主張して詐欺罪の成否が争われていました。
しかし、現在では、前者については、銀行の各種規定により口座名義人による預金通帳等の譲渡行為等が禁止されているから、この意思があることを秘して口座開設を申し込む行為は詐欺罪の欺罔行為に当たる、後者については、預金通帳は、これを使って預金の預け入れ、払い戻しを受けられるなどの財産的価値を有するものとして議論に決着が付けられています。
判例(平成19年7月17日、平成14年10月21日)も同様の立場です。
~ 詐欺の意思(故意)は口座開設時に必要 ~
ただし、行員を騙す意思、すなわち、預金通帳等を第三者に譲渡する意思(=預金通帳等を自ら利用つまりがない意思)は口座開設時に存在することが必要です。
つまり、始めは自分で使うつもりが気が変わって他人に譲渡した場合、犯収法(犯罪収益移転防止法)に問われるは別として詐欺罪に問われることはありません。
例えば、休眠口座に係る預金通帳等がこれに当たるでしょう。
しかし、「自分で使うつもりだった」という理屈が全て通るわけでもありません。
・短期間に複数の銀行口座を開設していること
・複数の預金通帳を所持していること
・口座開設後、短期間で他人に譲渡等していること
・生活口座として利用した形跡が認められないこと
などの事情があれば、口座開設時に、預金通帳等を第三者に譲渡する意思(=預金通帳等を自ら利用つまりがない意思)があったのではないかと疑われてしまいます。
~ 犯収法 ~
先ほど少し触れましたが、口座開設時に自分で使用する意思で作った預金通帳でも、その後、第三者に譲渡等してしまえば、犯収法に問われる可能性があります。
この点は、犯収法28条1項に規定されています。
なお、預金通帳等を無償で譲渡等した場合、行為者において、「相手方(本件の男)が他人になりすまして銀行との間における預貯金契約のサービスを受けること又は第三者にさせる目的があること」の認識が必要ですが、有償でした場合は、その認識は不要とされています。
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