詐欺で逮捕~特殊詐欺の故意
特殊詐欺のいわゆる「架け子」であるXは,Aと共謀の上,埼玉県三郷市に住むVに対し,立替金の返金のために送金が必要であると騙し,居住実態のないYアパート宛に,Vに現金100万円を送付させ,「受け子」であるAにこれを受取らせた。
Vの被害届を受けて捜査していた埼玉県吉川警察署の警察官は,Aを詐欺罪の疑いで逮捕した。
逮捕の知らせを受けたAの家族は,詐欺事件に強いと評判の弁護士に相談することにした。
(本件は事実を基にしたフィクションです。)
~詐欺罪と客観面~
刑法246条は,詐欺罪について定め,その1項で「財物」についての詐欺行為を処罰しています。
本件も,現金という「財物」を騙し取る詐欺のため,刑法246条1項の成否が問題となります。
同条項の「人を欺いて財物を交付させた者」を詐欺とするという条文からは,必ずしも明らかではありませんが,一般に詐欺罪(1項)が成立するためには,①「欺罔行為」(改正前の条文ではこの文言が使われていたことから現在もこの語を使う文献等も少なくありません),②「錯誤」,③「交付行為(処分行為)」,④「財物の移転」が必要であるとされています。
また,上記①~④の間には一連の因果関係が必要となります。
本件では,架け子と受け子Aの共謀によって,この客観面の要件が満たされることには特に争いはないでしょう。
~詐欺罪と故意(主観面)~
そして,詐欺罪も当然故意犯であることから,主観的要件としての「罪を犯す意思」(刑法38条1項本文)すなわち「故意」が必要となります。
この点に関して,本件のような特殊詐欺に関して判示したのが最高裁平成30年12月11日判決です(同14日にも同種の争点に関する最高裁判決が出されています)。
前審(第2審)は,本件のような宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺が,報道等により社会的にどの程度周知されていたか等が故意の有無に関わってくるとし,本件行為当時の報道状況等からすれば,被告人が本件詐欺を認識できたとはいえないとし,詐欺の故意を否定し,被告人に無罪を言い渡していました。
しかし,最高裁は,第1審の判断を全面的に採用し,本件特殊詐欺の故意を肯定し,本件特殊詐欺の手口が報道等により広く社会に周知されている状況の有無は,故意の認定にあたって決定的なものではないとしました。
もっとも,本件判例の事件は,2015年の事件であり,宅配便で現金を送付させてだまし取る特殊詐欺の態様が,いまだ周知されていたとはいいがたい状況であったのも確かです。
しかし,2019年現在では,この手の特殊詐欺は,もはや特殊詐欺の態様として一般化しているといえ,同事案における詐欺罪の故意はより認められやすい状況になっていると考えられます。
なお,詐欺罪の主観面においても,窃盗罪等と同様に,主観的要件として不法領得の意思が必要となる点にも注意が必要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,昨今氾濫する特殊詐欺を含む詐欺事件等の刑事事件を専門とする法律事務所です。
特殊詐欺の「受け子」「出し子」といった役割は,若年層のお小遣い稼ぎとして特殊詐欺グループ等から利用されていることもあり,近年大きな社会問題となっています。
弊所では年中無休のフリーダイヤル(0120-631-881)にて,詐欺事件によって逮捕されてしまったご家族によるお問い合わせも承っております。
刑事事件は時間との闘いであり,弁護士による対応の遅速が時には明暗を分けることもあり得ることから,お早目のお問い合わせをおすすめいたします。