模造通貨を使って詐欺
福岡県豊前市に住むAさんは、お金に困っていたため、現金を騙し取る方法をインターネットで調べた結果、模造通貨を使って現金を騙し取ろうと考えました。
そこで、Aさんは、インターネットで「百万円札メモ帳」というおもちゃの紙幣を購入し、それをコピーして表、裏を張り合わせて偽の1万円札を作り出しました。
そして、Aさんは、予め目を付けていた高齢者Vさん(82歳)が営んでいるたばこ店へ行きました。
Aさんは、同たばこ店で、Vさんに偽の1万円札を見せ、「おばあちゃん、これと千円札10枚と両替してくれない?」などと言って1万円札をVさんに手渡し、Vさんから千円札10枚を受け取りました。
その後、偽紙幣に「壱万円」ではなく「百万円」と書かれていることに気づいたVさんは福岡県豊前警察署に通報し、被害届を提出しました。
Aさんは福岡県豊前警察署に詐欺罪で逮捕されてしまいました。
(フィクションです。)
~ 通貨偽造・同行使罪では処罰されないの? ~
通用する通貨を偽造した場合は刑法148条1項で、それを行使した場合は同条2項が適用され処罰される可能性があります。
刑法148条1項
行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
刑法148条2項
偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使のも目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項(刑法148条1項)と同様とする。
「行使」とは、偽造・変造した通貨を真正な通貨として(本物の通貨として)流通に置くことをいいます。
また、通貨発行権者(政府・日本銀行)でない者が、真正の通貨の外観を有するものを作ること、「変造」とは、通貨発行権者でない者が、真正な通貨に加工して、別個の、真正な通貨と紛らわしい外観を有する物を作ることをいいます。
ところで、通貨偽造・同行使罪で処罰することによって守られるべき法益は、「通貨に対する一般人の信用」とされています。
日常生活で使われる貨幣や紙幣が本物かどうか、取り引きのたびに毎回、怪しまなければいけないような事態となれば、経済活動は大混乱となります。
そこで、そのような事態が起きないよう、刑法は、通貨偽造等の行為を厳しく処罰することとしているのです。
通貨偽造・同行使罪の保護法益が「通貨に対する一般人の信用」であることから、その通貨が誰の目から見ても偽造通貨ではないと分かるようであれば経済活動が混乱することはなく、通貨偽造・同行使罪で保護する必要はありません。
そこで、「偽造」というためには、「一般人が通常の注意力で真正の通貨と誤認する程度に作り出されたもの」でなければならないとされています。
本件通貨は、単に、表には「百万円」と書かれている「百万円札メモ帳」というおもちゃの紙幣をコピーしてその表、裏を張り付けただけの稚拙な紙幣でした。
そうであれば、一般人の通常の注意力をもってすれば、真正な通貨ではないことは見抜けるはずです。
そこで、本件では、通貨偽造罪は適用されなかったものと考えられます。
~ 通貨及証券模造取締法で処罰される可能性も ~
なお、「偽造」までには至らない外観を有する通貨等を製造、販売した場合は、明治28年に制定された通貨及証券模造取締法という法律で処罰される可能性があります。
第1条 貨幣、政府発行紙幣、銀行紙幣、兌換銀行券、国債証券及地方債証券ニ紛ハシキ外観ヲ有スルモノヲ製造シ又ハ販売スルコトヲ得ス
第2条 前条ニ違犯シタル者ハ1月以上3年以下ノ重禁錮ニ処シ5円以上50円以下ノ罰金ヲ附加ス
「紛ハシキ外観」は偽造の程度より広く解されますので、たとえ一見すれば本物とは違うと分かる程度であってもよいとされています。
また、本罪は、通貨偽造罪と異なり、「行使の目的」が必要とされていません。
したがって、何ら目的もなく単に製造、販売した場合でも処罰されるおそれがあります。
~ 詐欺罪との関係 ~
仮に、通貨偽造行使罪が成立した場合は、詐欺罪は成立しません。
偽造通貨を行使する際には一般的に欺罔行為(騙す行為)を伴い、偽造通貨行使罪は詐欺罪を当然に予定していると考えられているからです。
なお、通貨及証券模造取締法は製造・販売行為を処罰する法律で、詐欺罪の騙す行為とは別個の行為と考えられますから、通貨及証券模造取締法で処罰される場合は詐欺罪でも処罰される可能性があります。
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