事例:金に困ったAはVの血縁者になりすまし、「相手先とトラブルになった至急100万円がいる。」「私の代わりに信頼できる人が取りに行くので渡してほしい。」と嘘を言い、Vに現金を用意させた。
Aは別人になりすましV宅を訪問する予定だったが、「私は血縁者ではない。だましてしまって申し訳ない。」と電話しV宅で現金の受け取りを取りやめた。
しかし、Vの事前の通報により警らしていた警察官は、Aを詐欺(未遂)違反の疑いで逮捕した。
Aの家族は、詐欺事件に強いと評判の弁護士に相談することにした(本件は事実をもとにしたフィクションです。)。
~オレオレ詐欺の単独犯~
オレオレ詐欺や振り込め詐欺などは、役割を分担し組織的に行われることが多い犯罪です。
もっとも、そうでないケースもあり、単独で架け子と受け子の2役を演じる単独犯のケースも存在します。
本件もそのケースにあたり、刑法246条1項により「人を欺いて財物を交付させた」といえれば、Aの行為には詐欺罪が成立することになります。
しかし、本件では良心の呵責から、Vに電話し嘘をついた後V宅を訪問する前に、Vに対し以前の電話は嘘の電話であり「私は血縁者ではない。だましてしまって申し訳ない。」などと謝罪し、現金を受け取りに行かないことにしています。
このようにAは嘘を取り消し、Vには何ら被害は生じなかったのだから、Aに犯罪は成立しないと思う方もいるかもしれません。
しかし、刑法43条本文は、「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる」としており、「犯罪の実行に着手」した以上は犯罪の成立自体は否定されない旨の規定を置いています。
つまり、「犯罪の実行に着手」した時点で、「未遂を罰する場合は、各本条で定める」(44条)とある通り、未遂罪が成立し得るのです。
詐欺罪においては、「人を欺」く行為がなされた時点で、詐欺罪が既遂に達する現実的危険性があることから、この時点で「犯罪の実行に着手」したとして詐欺未遂罪が成立しうるに注意が必要です。
~ 中止犯とはなにか~
刑法43条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
上述したように43条本文は未遂犯に関する総則的規定であり、本件詐欺罪(246条1項)は250条の未遂処罰規定によって未遂罪も成立します。
未遂犯の場合は犯罪が成立しても「これを遂げなかった」すなわち犯罪の結果が生じなかったということですから、既遂犯に対しいわば不完全な犯罪であるといえます。
したがって、犯罪の成立自体は否定しないものの、科刑の面で任意的に減軽できることが規定されているのです。
さらに、同条ただし書では、「自己の意思により犯罪を中止したとき」に関する特別な規定を置いています。
これが、中止犯(中止未遂)に関する刑法の規定であり、Aにはこの規定の適用を受ける可能性があります。
この規定に該当するときには、刑は43条本文の単なる未遂犯と異なり、必ず減軽か免除されることになります。
もっとも、中止犯が成立するかは「犯罪を中止」したかどうかや、それが「自己の意思」によるものなのかといった点に、法解釈上あるいは事実認定上のハードルが存在します。
したがって、専門知識を有する刑事弁護士のアドバイスを受けなければ、その適用の有無を判断するのは困難です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、オレオレ詐欺・振り込め詐欺などの詐欺事件を含む刑事事件専門の法律事務所です。
詐欺(未遂)事件で逮捕された方のご家族等は、年中無休のフリーダイヤル(0120-631-881)に まずはお問い合わせください。
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