犯罪収益移転防止法違反事件で詐欺罪も疑われたら
犯罪収益移転防止法違反事件で詐欺罪も疑われてしまったというケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
〜事例〜
神奈川県川崎市幸区に住んでいるAさんは、会社をリストラされ、金融会社から借金をして生活していましたが、だんだんと返済が滞るようになってしまいました。
するとある日Aさんは、借金をしていた金融会社 Xから、Aさん名義の通帳とキャッシュカードを渡せば借金を減額すると言われました。
Aさんは、借金の手前金融会社Xの言うことを聞かなければと思い、自身の通帳とキャッシュカード2枚を金融会社Xに渡してしまいました。
するとその後、Aさんの元に、金融会社Xに通帳とキャッシュカードを渡した2つの銀行から口座が凍結された旨の通知文書が送られてきました。
Aさんが驚いていたところ、神奈川県幸警察署の警察官がAさん宅へやって来て、犯罪収益移転防止法違反の容疑で話を聞きたいと言ってきました。
Aさんは、神奈川県幸警察署での取調べの後に自宅へと帰らせてもらえましたが、警察官から「詐欺罪での取調べもあるかもしれない。また呼び出す」と言われたことから今後の処罰などに不安を感じ、刑事事件専門の弁護士に相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・犯罪収益移転防止法とは
今回の事例では、Aさんが犯罪収益移転防止法違反の容疑で警察署で取調べを受けているようです。
犯罪収益移転防止法とは、正式名称を犯罪による収益の移転防止に関する法律という、マネー・ロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与の防止等を目的とした法律であり、そのために金融機関等の取引時確認や取引記録保存並びに疑わしい取引の届出等の義務を定めています。
この犯罪収益防止法の中で、通帳やキャッシュカードなどを他人に譲渡することは禁止されています。
犯罪収益移転防止法第28条
第1項 他人になりすまして特定事業者(第2条第2項第1号から第15号まで及び第36号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第2条第2項第1号から第37号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下この条において「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
第2項 相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。
通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。
第3項 業として前二項の罪に当たる行為をした者は、3年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第4項 第一項又は第二項の罪に当たる行為をするよう、人を勧誘し、又は広告その他これに類似する方法により人を誘引した者も、第一項と同様とする。
このうち、犯罪収益移転防止法第28条第2項が通帳やキャッシュカードを他人に渡す行為についての規定となります。
今回のAさんの場合、借金の減額と引き換えに=有償で他人である金融会社Xに通帳等を渡していることから、この条文に当てはまり犯罪収益移転防止法違反となると考えられるのです。
・犯罪収益移転防止法違反から詐欺罪も疑われる?
通帳等を他人に渡すことによる犯罪収益移転防止法違反事件では、加えて詐欺罪の容疑がかけられることもあります。
というのも、通帳等の譲渡先でその通帳が詐欺行為などに利用されていた場合、通帳を渡した人も詐欺事件に関わっているのではないかと疑われる可能性があるためです。
今回のAさんも、銀行から口座の凍結通知が来ていることから、金融会社Xに渡した通帳等が詐欺事件など何らかの不正行為・犯罪行為に使われてしまった可能性があります。
また、もしもAさんが元々金融会社Xに譲渡するために口座を開設していたような場合、この行為に銀行に対する詐欺罪が成立する可能性もあります。
口座は開設した本人が使用するものと銀行が確認した上で開設されるため、そこを偽って通帳等を受け取ることは詐欺罪に当たりうるのです。
このように、Aさんの認識等によっては犯罪収益移転防止法違反だけでなく、詐欺罪の成立も考えられるため、捜査機関としては詐欺罪での立件も視野に入れて捜査する可能性があるのです。
犯罪収益移転防止法違反だけでも聞き慣れない犯罪であることもあり複雑なことが多く対応に困ってしまう中、詐欺罪まで疑われているとなれば、当事者だけで刑事手続きに対応していくことは困難でしょう。
こうした時こそ、刑事事件に強い弁護士の力を借りましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、犯罪収益移転防止法違反事件だけでなく、詐欺事件の取り扱いも行っています。
まずはお気軽にご相談ください。