タクシーの無賃乗車により逮捕
今回は、タクシーで無賃乗車をした場合に成立する罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
Ａさんは、所持金も貯金等も全くない状態でしたが、どうしても行かなければならない場所があったため、タクシーに乗りました。
Ａさんは、タクシーの運転手に対して「目的地に着けばコンビニで金を降ろすのでお願いします。」と話したところ、運転手は了承し、目的地に向かいました。
目的地に到着後、運賃として２万円を請求されました。
Ａさんは、ここで「お金はないので払えない。」と話したところ、運転手から「警察を呼ぶ。」と告げられ、現場に駆け付けた兵庫県神戸水上警察署の警察官に、詐欺罪の疑いで逮捕されました。
（事例は事実に基づくフィクションです。）
タクシーで無賃乗車をするとどのような罪が成立するのか
事例の場合では、２項詐欺罪が成立する可能性が高いと思われます。
刑法第２４６条１項には、「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する」と記載されており、さらに同条２項は、「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする」としています。
したがって、人を欺いて財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた場合に、２項詐欺罪が成立することになります。
法定刑も１項と同じく、１０年以下の懲役となります。
「財産上不法の利益」とは、財物以外の財産上の利益を不法な手段で得ることを意味し、財産上の利益として「債権」や「労務の提供」、「債務の免除」などがあります。
「人を欺いて財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた」というのは、
うそだと知っていれば処分行為を行わないような重要な事項について偽る行為（欺罔行為）によって、被害者を錯誤状態に陥れ、錯誤状態によって財産上の処分行為を行い、その結果、財産上の利益を取得する
という因果経過をたどる必要があります。
また、財産上の利益を得たと判断されるためには、具体性や確実性が必要になります。
そのため、
・人を騙したが、その相手方は騙されることなく、財産上の処分行為をしなかった。
・相手方が欺罔行為を見破ったが、欺罔行為者に対する同情から財産上の処分行為を行った。
という場合には、上記の因果経過をたどったと認められないため、２項詐欺罪は未遂に留まります。
事例の検討
欺罔行為について
Ａさんが運転手に対し、「到着後にコンビニでお金を降ろす」と話した行為は、本来、目的地到着後に料金を支払える当てがないのに、支払えるように装ったものと評価できると考えられます。
料金の支払いはタクシー運転手が労務を提供するうえで重要な事項にあたるでしょうから、Aさんの行為は「欺罔行為」に当たると考えられます。
錯誤について
タクシーの場合、通常、目的地到着後直ちに料金の支払いを行いますが、Ａさんの欺罔行為により、タクシーの運転手が目的地到着後直ちに料金を支払ってもらえるものと誤信させたと考えられるので、錯誤があったものと評価できるでしょう。
財産上の処分行為及びその取得について
錯誤に陥ったタクシー運転手は、有償でＡさんを運送し、よってＡさんは運賃２万円相当の財産上不法の利益を受けたと考えられます。
以上により、Ａさんには２項詐欺罪が成立する可能性が高いと思われます。
逮捕後について
逮捕されれば、取調べが始まることになります。
事例の場合、タクシー下車時点におけるＡさんの支払能力について詳しく尋ねられると思います。
Ａさんはそもそも現金を持っておらず、また、預金等もないので、支払能力がないものと判断される可能性が高いでしょう。
このような状態で「支払うつもりはあったので、詐欺の故意がなかった」と主張しても、おそらく通用はしないと思われます。
このまま何もしなければ、起訴されて裁判となる可能性が高いでしょう。
被害者との示談
詐欺事件の弁護活動として、本人や家族から依頼を受けた弁護士が接見をおこない、事件について相談した上で、罪を認めて被害者と示談をすることが考えられます。
逮捕されている場合には、示談交渉を弁護士に任せることになります。
Ａさんが乗ったタクシーが会社所属の場合は、当該会社に対して、個人タクシーの場合は運転手に対し示談交渉を行い、Ａさんと被害者双方が納得のいく条件で示談を成立させることを目指します。
示談が成立すれば、当事者間で事件が解決したものとして、釈放される場合もあります。
また、捜査段階の最終局面において、検察官がＡさんを不起訴処分（起訴猶予）とする可能性も高まります。
不起訴処分を獲得できれば、裁判にかけられず、また、前科がつくこともありません。
接見にやってきた弁護士と相談し、より有利な事件解決を目指していきましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件・少年事件を主に取り扱う法律事務所です。
ご家族がタクシーの無賃乗車事件を起こし、逮捕されてしまった方は、是非、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
