訴訟を匂わす特殊詐欺と訴訟詐欺
訴訟を匂わす特殊詐欺と訴訟詐欺の違いなどについて,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
Aら特殊詐欺のグループは内部計画に基づき,横浜市金沢区に住んでいるVに対し,訴訟通知書などと題した書面を送付し,いわゆる架け子役の者がVに対し「訴訟をやめさせたければ,お金を払う必要がある」などと,Vに虚偽の事実を告げた。
これに騙されたVは,横浜市金沢区にあるVの自宅を訪れた受け子役に対し,現金を交付した。
その後,Vが詐欺に遭ったと気づいて神奈川県金沢警察署に通報したことで捜査が始まり,その結果,神奈川県金沢警察署の警察官は,Aらを詐欺罪の疑いで逮捕した。
Aの家族は,詐欺事件に強いと評判の弁護士に相談することにした。
(本件は事実をもとにしたフィクションです。)
~訴訟を匂わす特殊詐欺~
いわゆる「オレオレ詐欺」などに端を発した「特殊詐欺」による被害額は,2018年(平成30年)においても360億円超と高い水準を維持したままであり,なお大きな社会問題となっています。
そして,本件もこの「特殊詐欺」の一類型であるといえます。
刑法246条1項によると,「人を欺いて財物を交付させた者」は詐欺罪に問われることになり,本件は金銭という「財物」を対象とする,いわゆる1項詐欺事件ということになるでしょう。
本件では,Aらは共謀した上で,Vに対し訴訟通知などと題した書面を送付し,グループの架け子役が「訴訟をやめさせたければお金を払う必要がある」などとVを騙しています。
この行為は,詐欺罪における「人を欺」く行為(欺もう行為)に当たることに疑いはなく,この行為により,詐欺罪への実行の着手(刑法43条本文)が認められ,この時点で詐欺未遂罪が成立することになります。
したがって,本件では仮に金銭の交付を受けなかったとしても,Aら全員が詐欺未遂罪の共同正犯として処罰される可能性があるのです。
そして本件では,Vを騙した上で,受け子役が金銭を受け取っていることから「財物を交付させた」といえ,詐欺罪は既遂に達しているといえます。
よって,Aを含めた特殊詐欺グループの行為に詐欺罪が成立するものと考えられます(刑60条・246条1項)。
~(特殊詐欺とは異なる)訴訟詐欺~
今回のAらが逮捕されているのはあくまで訴訟をちらつかせ被害者を騙す特殊詐欺でしたが,これとは異なり,純粋に裁判所から違法に判決を騙取する訴訟詐欺というものも存在します。
典型的には,本当は債務を負っていない被害者に対し実際に訴訟を提起し,虚偽の証拠などに基づいて被害者に対する勝訴判決を得るような場合です。
このようなことが現実に起こりうるのかと疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが,民事裁判においては,形式的真実主義が採られており,民事裁判の場で文字通りの「真実」が明らかになるとは限らないことに注意が必要です。
訴訟詐欺の場合,詐欺行為の加害者と被害者と裁判所という三者間における詐欺ということになりますが,判例・実務上は,裁判所が被害者の財産を処分しうる権限・地位にあれば,詐欺罪が成立するものと解されています。
なぜこのような権限・地位が必要になるのかといえば,詐欺罪は被害者に財産を交付させることを内容とする罪であるため,被害者と処分者をいわば同一視できなければならないからです。
上記観点から加害者が被害者を騙して「財物を交付させた」といえるのであれば,訴訟詐欺として詐欺罪が成立することになります。
このように特殊詐欺を含め,詐欺には様々な類型が存在し,その成立要件や立証活動なども複雑なことが少なくありません。
また,特殊詐欺では特定の一人を狙い撃ちするというより,高齢者を中心に不特定多数に対し行われることが多く,余罪等の追及の可能性もあります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,特殊詐欺を含む詐欺事件など刑事事件を専門に取り扱う法律事務所です。
詐欺事件で逮捕された方のご家族は,まずは年中無休のフリーダイヤル(0120-631-881)にお問合せください。